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不可知論者が1年間聖書に書かれている通りの生活をする『聖書男(バイブルマン)』

A.J. ジェイコブズ / 阪急コミュニケーションズ (2013/11/11)

不可知論者(神は認識不可能であるとする人)の筆者が、聖書に書かれていることを忠実に守り、出来るだけ文章通りにして1年間生活を試みたという日記。筆者はどちらかというと聖書を字義解釈(本当に書かれている文章通りに意味をとる)して行動する傾向が強いです。

神がアダムに最初に命じたことは「産めよ、増えよ」らしいです。この部分の英語は「Be fruitful and multiply」。つまり字義解釈するなら、スーパーマーケットでフルーツをたくさん買い、その後にかけ算をすればこの命令を達成できるということです。

しかし、聖書はどんな事柄でも常にある程度の解釈が入っているようです。かなり昔に書かれたものだし、今の時代に合わないことも多い。当然といえば当然ですね。そのため、筆者は完全に字義解釈通りに生活するのはなく、いろいろなラビに相談し、どう解釈するのかを聞いてから行動をとっていきます。ただし最終的には字義解釈する傾向が強いです。

聖書に書かれている通り、着る服を二種類以上の糸で作られていないものにしてみたり、ひげを剃らないようにしたり、収入の十分の一を寄付したり、石打の刑を試みたり。筆者はいろいろと行います。その1年間の聖書通りの生活の中でも、筆者に一番影響が大きかったのは「祈り」だったとのことです

最初は聖書にある「祈り」をしようとして何を祈ったらいいのか分からずに戸惑い、聖書の中に登場する好きな文章を祈りの言葉にしていました。でもそれがだんだん感謝の言葉に変わっていきます。生活のあらゆる出来事に感謝、感謝。個人主義の傾向が少し弱まったと綴っています。形から入っても聖書は人に影響してしまうようです。ネタバレか分かりませんが、筆者は一年後も変わらず不可知論者のままだったのですが、聖書の影響は確実にあったようです。

私がこの本で一番ためになったところは、創造論者側の立場からの解釈。地球が誕生してから六千年しか経っていないとする説を信じている教徒がいるようです。筆者はもちろん信じてはいません。でも次のように考えています。

地球はたかだか数千年前にできたのだと自分に言い聞かせるのだ。…

けれど、それ以上に感じるのは、僕の人生が以前より意味を帯びてきたと言うこと。地球が百億歳なら、僕の人生は宇宙という大海のひとしずくにすぎない。けれど、地球が六千歳なら、この世界で僕の人生の占める割合が大きくなる。生命という映画の中で、端役ではなく、台詞のある訳を貰ったことになる。

創造博物館の広報担当のマーク・ルーイが言っていた。

”進化論者は我々が偶然の産物だという。藻類から進化したのだと。そんなことを言うのは、人間性にあまり価値をおいていないからだ。我々が何かの間違い、偶然の産物だとしたら、若者に目標や希望を持てと言えない”

これはなかなかいい考え方です。進化論を否定する人の話でも、彼らは「人間性に価値をおいている」からこそ、進化論を否定しているようです。人間はただ偶然生まれた存在だとか、地球が歩んできた歴史から見ると人間の歴史は本当に小さな存在であると考えてしまうと、確かに人間にあまり価値は無いように思えてしまいます。

「(聖書では)神は人間を自分に似せて作った。となると、人間には必ず価値があるはず」。こう考えて創造論者は地球誕生の科学的な話や進化論を否定するようです。確かに、地球が六千歳だとすると、各人が自分の行動に対して責任感が増すのは良い効果でしょう。

本全体としては、読むのがつらかったです。長いし、あまり笑えず、なかなか興味が保てませんでした。アメリカの、ある種世俗的な文化に詳しくないと笑えないでしょう。読者の笑いを誘う場面では、アメリカのテレビ出演者だとか、詩人、俳優、ラビ、議員、店名など、そういったものを引き出してきたり、それに例えることが多くて、それらのほとんどが分からない私には面白くなかったです。翻訳者が頑張っていろいろな固有名詞に註釈を加えてくれていますが、註釈を読んでもピンとこないし、大量の註釈で本文を読むテンポが悪くなってしまいました。

それに、実を言うとあまり聖書について勉強になりませんでした。筆者は聖書やユダヤ教・キリスト教に詳しくないと書いていますが、日本人よりは遙かに詳しいです。アメリカ人は無神論者だとしても宗教について日頃から触れているでしょう。そのため、「アーミッシュ」などの筆者にとっては当然の事柄でも、もう少し詳しく説明してくれないとどういうものか掴めません。

この本で聖書や宗教に少し詳しくなれるかなと思った私が間違いでした。「聖書ってこの部分がおかしいよね」と聖書を笑いものにするネタはこの本で蓄積できますが、それが果たして聖書の理解へ役に立つのでしょうか。

日本 Amazon ではこの本が「宗教入門」に分類されていますが、内容はその分類とは違います。私としては、聖書にある程度詳しい人が聖書通りに生活をしてみた時の個人的な日記を横から見ている気分でした。置いてけぼりです。この本はそもそもユダヤ・キリスト教についての入門書ではないし、解説書でも無いのです。日記です。それを理解した上で読むべきですね。

聖書に忠実に従った生活をしてみるという試み自体は面白いです。聖書とユダヤ教とキリスト教にもっと詳しければ、この本に娯楽的な面白さを感じられるのでしょう。

A.J. ジェイコブズ / 阪急コミュニケーションズ (2013/11/11)