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人工知能という言葉は知っているけれど、その仕組みはどうなっているの? AI の入門書『マッチ箱の脳(AI)』

森川幸人 / 森川幸人 (2014/1/5)

プレイステーションで発売された、宇宙で野菜を育てるゲーム「アストロノーカ」、子供の成長を見守るようなゲーム「がんばれ森川君2号」などを開発した森川幸人さんによる著書。数学が分からない人に向けた AI(Artificial Intelligence - 人工知能) の入門的解説書です。著者曰く、「文科系向けの AI 本」。AI の仕組みがどのようになっているのかを読者がより身近に感じられるように、読者がマッチ箱とマッチを使って AI の仕組みを体験できるように書かれています。

ただ「マッチ箱10箱、マッチ棒300本を用意しよう!」と言われても、これは多すぎてちょっと用意できません。今の日本ではマッチをほとんど使わないのでほとんどの家にないでしょう。それに八面サイコロもほとんどの人が手元にはないはず。もう少し手間が掛からない実験方法があれば良かったかと。私はマッチ箱を使う作業を実際にはせずに、全部頭の中で想像しました。そんなに難しいことをしないので実際に手を動かさずとも理解できます。出したり片付けたりが面倒ですしね。

AI は「遺伝子的アルゴリズム」「ニューラルネットワーク」「エキスパートシステム」というものが御三家らしいです。

まずは遺伝子的アルゴリズムの説明から始まります。これは遺伝子の仕組みを利用した AI で、ランダムに作られた個体のうち成績が優秀なものを親として、他の個体と交配して子を作るというアルゴリズムを使って AI を強化していきます。こうして作られた親と子の集団から成績の悪いものを排除し、その集団で同じように何度も何度も交配を行うことでより成績の良い個体が残っていく。仕組みは分かりやすいです。

この遺伝子的アルゴリズムは「いろいろと考えられる答えの中から、最も良い答えを見つけ出す」のがうまいらしいです。これの使用例としてテスト問題を解く場合が例として挙げられています。ただこのアルゴリズムは個体の「成績」を出すことから、「どのように成績を出すか」が重要となります。ここは AI でなく人間が行わないとなりません。

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「遺伝子的アルゴリズム」の挿絵。

「ニューラルネットワーク」は脳の神経回路の仕組みを利用した AI。それぞれの神経細胞が繋がっていて、どの位の強さの信号がその神経細胞間に流れるかを調節して作る AI。その信号の強さを学習させ、より成績の良い繋がりを作り出そうというもの。この AI では心理学者のヘッブ博士の考え、「シナプスの前と後で同時に神経細胞が興奮するとき、そのシナプス効率は強化される」というヘッブ則のアイディアが使われています。

この「ニューラルネットワーク」は最初は人間が模範解答を示して学習させる時間がある程度必要で、その後は新しい物事に対して答えが予測できるようになっていくらしいです。

「エキスパートシステム」は専門家が「この場合はこうである」という「IF ~ THEN ~ ELSE ~」のプログラム構文のようなものを集めたものらしいです。果たしてこれは AI なのでしょうか。単に解答を詰め込んだもののような気も。

この本ではこのほかにも、遺伝子的アルゴリズムとニューラルネットワークを組み合わせたもの、ホップフィールド・モデル、遺伝的プログラミング、強化学習法、Lシステムなどのアルゴリズムをさらっと紹介してくれています。それぞれのアルゴリズムをあまり深く説明しないので、当然ながら深くは理解できませんが、「AI ってなんだろう」という疑問に対する答えの取っかかりとしては分かりやすいです

知る人ぞ知るゲーム「アストロノーカ」を例に出し、敵の AI はこうなっていたんだよと教えてくれるし、「がんばれ森川君2号」もこんな感じで AI を使っていると説明してくれているのは嬉しいです。これらのゲームを知っているので想像が容易でした。

AI というと何か難しい学習方法で鍛え上げていくプログラムという印象がありましたが、この本に書いてあるそれぞれの AI の基本的な構造を知るだけでも、考え方次第でいろいろに応用できる気がします。

この本の問題点としては、挿絵の文字が汚いこと。上の画像は字が整っている方なので少し分かりにくいかもしれませんが、挿絵の文字が崩れていて読み解くのに時間が掛かります。本の後半はどんどん文字がのたうち回るように…。図解してくれるのは有り難いのですが、書いてある文字が何なのか分からないこともしばしば。ちょっと勿体ないです。

森川幸人 / 森川幸人 (2014/1/5)