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あなたが変われないのは、本当に変わろうと思っていないから。『嫌われる勇気』

岸見 一郎 / ダイヤモンド社; 1版 (2013/12/16)

今すごく売れている「嫌われる勇気」。この本はアドラー心理学の本であることと、アドラー心理学について「あなたが変われないのは、本当に変わろうと思っていないから」という言葉だけは以前から知ってはいたものの、ちょっと高かったので後で買おうと思っていました。ですが Kindle 版がお安くなっていたのですぐに購入。単行本の3分の1の値段とは助かります。

この本はアドラー心理学を教えてくれる「哲人」と自分が嫌いだと思い悩む「青年」の対話形式で書かれています。私は対話形式だと読みにくいと感じることが多いのですが、今回の対話形式は良かったです。青年が哲人に良い疑問をぶつけてくれます。

青年の言葉遣いがちょっと演技がかっていてちょっと変に感じられますが、良い質問をしてくれていて、一般人の視点でアドラー心理学の理解しがたいポイントを取り上げていて助かります。あとがきに書いてありますが、この対話形式はソクラテスとプラトンに影響されたものだそうです。助産術ですね。

この本の中で一番役に立ちそうだと思ったのは、「原因論から目的論へ」という考え方です。心を原因論で考えると過去に縛られてしまう。これを目的論に変えれば自分で過去の意味を決定できる、というもの。この本での例は次の通りです。

『青年は喫茶店でウェイターにコーヒーをこぼされてしまった。買ったばかりの一張羅に。このとき、青年は怒ってウェイターを怒鳴りつけた』。これを原因論で捉えると、「怒りの感情に突き動かされて、怒鳴った」となりますが、目的論では「大声を出すために、怒った」と捉えます。

「怒りは単なる手段であり、大声を出すために用いた。また、大声を出したのには目的があり、それは相手を屈服させるためだ」。を分析されます。

他の例では、「人前に出ると赤面してしまう。これを直したい」という相談が哲人にありました。アドラー心理学の目的論ではこれについて「あなたが赤面してしまうのは、人前に出るときに赤面という症状を必要としているから」と判断します。「赤面してしまうなら、他人との関係を避けることができる」と自分で納得する目的のため、赤面をしているというのです。

原因と結果を入れ替え、目的を探るというような視点ですこの視点に立つと「これまでの人生に何があったとしても、今後の人生をどう生きるかについて何の影響もない」という考えに至れます

つまり、アドラー心理学はトラウマを否定しています。トラウマは、過去にこんなことがあった結果こうなったと捉える原因論です。アドラー心理学では行動を目的論で捉え、「今の結果を自分で納得するために、過去を自分で意味づけている」と捉えます。

個人による物事の捉え方はアドラー心理学では「ライフスタイル」というそうです。ライフスタイルは後天的に自分で決定したもので、ライフスタイルは今からでも変えられるようです。私はこの話を読んでロラン・バルトの「エクリチュール」のような話だと感じました。

物事の捉え方だけで人は変われます。つまり、ライフスタイルを変えれば良いのです。ですが、「自分が嫌いだ、こんな自分を変えたい」と思っている人は多いのですが、そのほとんどの人が変われないようです。これはあなたがそれで納得しているから、とのことです。

「あなたが変われないのは、変わらない方が楽だから」。確かに、物に限らず、人も安定した現在の位置に留まろうとする傾向があります。 これが私が聞きかじっていた「あなたが変われないのは、本当に変わろうと思っていないから」という言葉の意味でした。何とも耳が痛い話ですが、当たっていると思います。

あと、全ての悩みは対人関係のものと断言されます。これには特に疑問はありませんでした。対人関係が悩みとなるなら、その裏返しを考えると、「人に嫌われたくない」という考えを止め、私と他者の課題を明確に線引きして分ければ、自由になれる。これがこの本のタイトルの「嫌われる勇気」という考え方。

この本でのポイントは次の通り。

  • 過去は自分の意味づけ次第
  • アドラー心理学は勇気の心理学
  • ライフスタイル(= 物事の捉え方)は変えられる
  • 他者との比較・競争はせず、理想的な自分と比較・競争せよ
  • すべての悩みは対人関係に由来する
  • 人に嫌われる勇気を持て
  • 劣等コンプレックスは止めろ
  • 特別にならず、普通であることの勇気を持て
  • 人を個人として尊重しろ
  • みんなを仲間だと思え
  • 自己肯定せずに、自己受容せよ
  • 他者への貢献が幸福へつながる。ただし、見返りを求めるな。他者の要求を満たすという意味ではない。
  • 今の刹那を大事にしよう

変な自己啓発の本を読むよりもこの本を読んだ方が良いです。この本は説得力があります。合理的な部分も多々あります。この本はアドラー心理学そのものについて説明を行うわけではなく、具体的な例を持ち出してこの場合どう考えるか、どうするかと語られるので分かりやすいです。

この本が売れているのはそんなに不思議ではありません。日本は世間の目という概念が強い国なので、物事を考えるときに他者がいつも入り込んでしまいます。アメリカではそうではなく、自我が強い。このアドラー心理学はアメリカでは、本書の通りコモンセンスにすでに落とし込まれているのかも知れません。

日本では対人関係の悩みが多そうですので、国民の多くが息苦しさを感じていてもおかしくありません。そんな中、「人から嫌われても良いんだよ」と説くこのアドラー心理学の考え方は、悩める日本人にとって救世主のように映るかも知れません。

岸見 一郎 / ダイヤモンド社; 1版 (2013/12/16)