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機動警察パトレイバーにそっくりでがっくり『海の底』

有川浩 / 角川グループパブリッシング (2009/4/25)

Amazon で高評価だったので以前から気になっていた小説。著者は有川浩さんで女性らしいです。読んでみると女性ならではの視点も含まれていました。

ストーリーは大量の巨大エビが横須賀に上陸して人々が逃げ惑うところから始まる。視点がいくつか分かれており、海上自衛官、子供たち、警察側の3つ。メインとなるのは海上自衛官の2人と、彼らに助けられた子供たち。巨大エビから逃れるために潜水艦に立てこもった。そこでの共同生活でいろいろと起きます。

女性作家ならではの視点もあり、子供の中に高校生の女性がいて男性作家はあまり詳しくない部分を描いていました。潜水艦内では日用品があまりなかったり、水をふんだんには使えない。こういう時やはり女性の方が心配事が多い。つまり日常生活を送る上での女性特有の問題を。男性はどうしてもこの視点を忘れてしまったり、あまり詳しく描けなかったりします。ここは私にとってはちょっと新鮮でした。

この小説で良かったのは子供に対して大人(といっても新米海上自衛官)が優しく対応しない部分です。子供にはとにかく何でもかんでも優しく庇護するストーリーが多いのですが、この小説は違っていました。わがままな子供には新米の海上自衛官がしっかりとものをいいます。私はそうするのが自然だと思いますので、優しすぎる大人たちが登場しないのは気分が良かったです。

Amazon では高評価ばかりだったのでストーリーも良いのだろうと思っていたのですが、私にとってはあまり新鮮みがありませんでした。巨大エビが横須賀に上陸して人々を殺して回り、警察が何とか押しとどめるのですが、この部分は「機動警察パトレイバー」とほぼ同じです

それに巨大エビへの対策として登場する方法は「機動警察パトレイバー」に登場したものと同じです。ちょっとがっくりきてしまいました。違うのは自衛隊が出てくるところあたり。巻末の参考文献に「機動警察パトレイバー」が書かれていなかったのが不思議なぐらいです。

巨大エビが登場してもどうも描き方が足りず、緊迫した状況には思えませんでした。人が多数死んでいるとのことなので日本で大規模なテロが起きたぐらい危機感かと思っていたら穏やかなものでした。大規模っぽくしていますが意外にも小規模でした。

他にも読んでいて気になったのは登場人物の名前の多さ。警察や自衛隊の人の名前がたくさん出てくるのですが、名前だけでそれ以降には出てこない人もいます。私は名前が出てくると「後で登場するかもしれないから覚えておかないと」と思ってしまいます。なのでこの小説での名前の多さはちょっと大変でした。覚える必要がない名前までもしっかり書かれているのは少し無駄な気がします。

後書きを読んでがくりときたのは、「ライトノベル」と著者自ら書いてあったこと。私はこの小説をライトノベルだと知らずに買いました。読んでいるときに想像したより話が軽いなと思ったのですが、著者自ら認めるライトノベルだったようです。「ライトノベルである」というのは作品が十分に練られていないことへの免罪符にならないとは思いますが、私はどうしても著者が軽く(ライトに)書いた作品であると思ってしまいます。最初に「ライトノベル」だと分かっていればもっと力を抜いて読んだのですが…。

後書きには「有川式大人ライトノベル第二弾」と書いてありましたが、その「大人」とはおそらく青少年あたりです。マージナルマンあたりまで。私にはこの小説を読んで考えさせられることはありませんでした。

私としては高評価なのが不思議な作品です。タイトルが「海の底」なのでもっと深遠なストーリーかと思っていたのですが。

有川浩 / 角川グループパブリッシング (2009/4/25)