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和声とは中心和音Ⅰを巡っての揺れ動き『和声の原理と実習』

外崎 幹二(著), 島岡 譲(著)
音楽之友社; A5版 (1958/11/5)

音楽の和声法(和声学)の本。随分前に買った本ですが、途中までしか読んでいなかったのを思い出して本棚から出し、買ってから随分経って読み切りました。

そもそもこの本を買ったのはいわゆる「芸大和声」(東京芸術大学で使われているらしい和声の教科書)という本の内容が細々としていて禁則ばかり羅列されていてよく分からなかったからです。今読んでもそう感じるかどうか分かりませんが…。

また、芸大和声の本は1巻から3巻+別巻まであり、全部を揃えようと思うと2万円ほどかかります。それにとても読み切れません。そこでこの「和声の原理と実習」という本の登場です。和声全体を比較的簡潔まとめてくれてあり、価格も5000円ほど。私が購入したときは4000円ほどだったのですが、値上がりしたようです。本が値上がりするとは珍しい…。

この本は1958年に初版が刊行されています。なんとも古いです。何度も増刷されていて本自体は新しいはずなのですが、たまに字がかすれているのが不思議です。

和声法

和声法は音楽を読み解く上で重要な知識で、音のつながりの法則性をまとめたものです。ですが、今となっては少し古いのかもしれません。今ではポップス向けの音楽理論というものがあって、あちらはもっと簡単で自由です。「コード進行」という言葉を聞いたことがあると思いますが、和声法はそれの元になっているものです。

私は最初にポップスの音楽理論を知ったため、和声法を知った後には少し混乱することがありました。例えば、和音の繋げ方。ポップスの方では和音の繋げ方はテキトーです。音を聴いてみて変に感じたら変えましょう、という程度です。確かにそれは真理かもしれません。ですが、耳の良くない人にとっては理論的に法則をある程度知っておくことが重要となります

和声法は音の構成にうるさく、音をどのように堆積するのかに注意を払っています。しかし和声法の説明本の悪いところはそこに理由がないことです。この本も例外ではなく、「この音構成は不良である」と単に書かれていたりします。すぐさま「何で?」と疑問が湧いてしまいます。「芸大和声」よりはずっと読みやすいのですが、「どうして不良と判断したのか」が書かれないため学習が難しいです。

この本では和声法の「原理」も書かれており、有名な「連続8度の禁止」は何故なのかなどがそこに書いてあります。私は以前からずっとこの禁則に疑問をもっていました。私は倍音が強調されすぎてしまうために連続8度を禁じているのだろうと推測していました。

しかしそうではなく、音名が同じ音が響くとどの声部の音か分からなくなってしまうため、と書いてあります。意外と単純な答え…。私の理屈の方が正しそうな気が…。

勉強になったところ

この本で一番なるほどと思ったのは、最後の方に登場する、

和声の流れは、結局、中心和音Ⅰを巡っての「揺れ動き」にすぎない

という言葉です。音は安定的な和音であるⅠ度の和音に最後には行き着くわけです。私は非和声音について理解が甘かったです。非和声音の中でも経過音と刺繍音が重要で、これによって和音が作られたと説明されます。

例えば、誰でも知っている「ドミソ」。このⅠ度の三和音のミとソを上方向に刺繍して、ファとラとします。そうした時、音の重なりは「ドファラ」となっています。これはⅣ度の和音です。その刺繍音を元に戻す、つまり、中心和音Ⅰに戻すことこそが「和声の流れ」ということです。この説明でⅠ→Ⅳ→Ⅰというカデンツが生み出されました。

疑問点

和声法に対してずっと持っている疑問としては、和声法はその名の通り「声」に重点を置いた理論なので、他の楽器では和声法をどう使うのか。これがずっと疑問です。他の楽器でも和声法的なメソッドが使えると思いますが、禁則などは少し変わってくるように思います。

そのあたりはどのようになっているのでしょうか。

和声法を知りたいと思っている人にはお勧め

和声法を独学でちょっとかじってみようと思っている人にはこの本はお勧めできます。「芸大和声」という本は独学には向いておらず、説明が不足しています。教師が授業でいろいろと教えるのでしょう。一方「和声の原理と実習」は一番最初に書かれていますが、「(この本は)独習者の為に十分に配慮してある」とあります。私も「芸大和声」より分かり易くてコンパクトにまとまっていると思います。

島岡 譲(著)
音楽之友社; B5版 (1964/3/1)

ところで、インターネット上にも音楽理論を説明したサイトがいくつもありますが、間違っているところが多々あります。そういうサイトの情報に惑わされてしまうよりは、最初から著名な方が書いたこの本を参照すれば情報の信頼性に安心できます。私も惑わされてしまったのですがこの本を早く読んでおけば良かったです。

ちなみに和声法の借用の概念は分かり易くて、ポップス理論よりもいいです。ポップスではサブドミナント・マイナーなどという分かりにくい用語がありますが、これは借用で説明が付きます。借用の概念の一部がサブドミナント・マイナーなので、借用を理解した方がいろいろと視野が広くなっていいはずです。

この本は「実習編」と「原理編」に分かれていますが、第1部である「実習編」の最初だけでも読んでおくと音楽が分かりやすくなると思います。

外崎 幹二(著), 島岡 譲(著)
音楽之友社; A5版 (1958/11/5)