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読書習慣を付けたい。…マンガも本だよね?

楽譜を読むとはどういうことか『演奏法の基礎 - レッスンに役立つ楽譜の読み方』

以前からずっと分からなかった「楽譜を読む」方法の基礎が書いてある本。楽譜をただ眺めて音をなぞるのを「楽譜を読む」というのではなく、本当は楽譜から作曲者が考えた音の運び方や意図を読み取らなければなりません。これはかなり前からずっと疑問に思っていて、プロの指揮者や演奏家は楽譜をどうやって読んでいるのか不思議に思っていました。初めて見る楽譜に対して、どのような演奏するのか。その基本的な事柄がこの本で書かれています。

この本の内容は確かに「演奏法の基礎」とありますが、読むのはなかなか音楽的な知識を要します。「基礎」といえども、音楽の基礎は分かっている人に向けた本でした。音楽の基礎とは、基本的な楽典的知識、少しの音楽史、和声、調、楽式など。私は音楽的な教育を受けたわけではないので、そのあたりの基礎は知識がかなり怪しいです。特に音楽史は全然知りません。音楽史の本を読まなくては。

読譜の本当に土台にあるのは「メトリーク(拍節法)」と呼ばれる方法。文字通り拍節の捉え方です。小節内外の流れをどう捉えるか。これを知っているだけでもずいぶん違うなと感じる内容でした。この基本的なことでさえ私は知りませんでした。音符の読み方から始まるような基本的な楽典の本には書かれていなかったはず…。

この「メトリーク」に関して、後書きには

[著者がメトリークという言葉と出会った時]  ニュー・グローヴ音楽事典やMGGといった辞典類にあたって、次々とその項目を探したが、どこにも記載されていなかった。

とあります。この時、日本の音楽教育ではメトリークに関することが欠落していたと書かれています。それから時間が経ったので今の音楽教育ではどのようになっているか分かりませんが、部外者には今でもほぼ馴染みが無い事柄でしょう。

この本ではスラーの役割の解説が驚きでした。スラーは単に音を滑らかに演奏するというアーティキュレーション(表現指示)だとずっと思っていましたが、この本を読んでその認識が変わりました。つまりスラーとは作曲家が考えた音のまとまりを指し示すもので、その表現をすると結果として「一弓」の原則と併せて音が滑らかになるということだと分かりました。それにスラーのまとまりの最後の音は短め演奏することも、まとまりを表現する結果としてそうなるのです。この理屈はよく分かります。スラーという単なる一つの記号にここまで意味があったとは驚きです。

他に「連桁(れんこう)」についても目から鱗です。連桁というのは連続した8分音符などを繋げる際の記号。この連桁にも作曲家の意図が現れているのです。簡単に言うと連桁にできる箇所の音符を連桁にしないとき、そこには意味があるということ。他にも小節をまたいだ連桁などの解説もありました。連桁の解説の譜例にベートーヴェンの「エリーゼのために」があります。この楽譜は見たことがありますが、その時は全く連桁の意図に気付きませんでした。小節をまたいだ連桁がこの有名作品に存在します。これが作曲者の意図なのです。…全然気付かずに音符を追って弾いていました。

読譜をするにはメトリークを土台に、スラーによるまとまりやシンコペーション、連桁の意図、和声機能による流れ、楽節による区分などを総合し、楽譜の音楽の流れを読み取れば良いようです。本書ではこれを「リズム分析、和声分析、構造分析」とし、「以上が読譜に求められる内容項目であるが、こうした作業を経て初めて『解釈』が始まると考えたい」とあります。つまりこれが本のタイトルの『演奏法の基礎』のことです。これを実際に自分でやってみると難しいです。プロの演奏家はこういうことをしているのですね。

ところでリズム分析の箇所にあった、「ポリ・リズム」「ポリ・メトリック」「ポリ・リトミック」の差がどうにもよく分かりませんでした。ポリ・リズムはよく使われる言葉なので少しは分かりますが、じゃあポリ・メトリックとどう違うのかとなると差がよく分かりません。そこに「ポリ・リトミック」も参加してくるとパニックに!

ともかく、全体的には読んで良かった本でした。和声の意味も少し分かるようになったし、リズムに関しても以前よりは注意できます。この本のおかげで、今後、楽譜を読んだり音楽を聴くときにより楽めるようになりました。