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読書習慣を付けたい。…マンガも本だよね?

魔女とは何なのかが徐々に明らかになっていくサスペンス要素が面白い『山田くんと7人の魔女』

吉河美希
講談社 (2012/6/15)

「山田くんと7人の魔女」という名前だけはドラマかアニメかで知っており、それだけでこのマンガを読み始めました。とりあえず1巻だけ読んで読み続けるか判断しよう…。…絵がごちゃごちゃしていなくて見やすい。意外と舞台設定が面白いな…。2巻…3巻…。

マンガを描いているのが女性だったのと、ドラマ化される作品はどうせ純愛ものだろうと考えて期待していなかったのですが、失礼ですが意外にも面白いです

ストーリーの始まりはキスをしてしまって体が入れ替わるというありがちな話なのですが、体が入れ替わった原因が「魔女」という存在であり、この存在がストーリー中ずっと絡んできます。

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体が初めて入れ替わるシーン。

乱暴者として知られる主人公の山田くんと、主人公から見ると嫌なヤツである、学年1の優等生の女性と体が入れ替わってしまいます。体を入れ替えてその日の学園生活を行うことになるのですが、相手のことを知ってみると意外とお互いに大変なのだなと気付きます。

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女性キャラクターの体に山田くんが入っています。

体を入れ替えて日々の苦難に対処します。ここだけ見ると良くある話なのですが、このマンガは魔女の力を使っての争いがありここが面白いです

他の魔女と争わなければならず、相手の能力が何なのかを見極めなければなりません。主人公たちも魔女についてよく分かっていないので、魔女とは何なのかを探りつつ、相手を知り、相手より優位に立てるようにします。

「魔女」というより、「能力者」という言葉の方が分かりやすいかも知れませんね。「魔女」といっても魔法で敵と戦うファンタジーなものではありませんし。学校の中にいる「能力者」が誰なのか、どういう能力なのか、敵なのか味方なのか…。こういうのに私はワクワクしてしまいます。

主人公の山田くんは特異な存在で、魔女の力をキスでコピーできる。一人に対して魔女の力は1つしか働かない、など、少しずつ分かっていく魔女についての設定が面白いです。こういう魔女に対する設定が積み重なって、それを利用した戦略的な争いを行うのですが、これを描くのが女性のマンガ家というのが意外で、設定が丁寧だなと感じます。

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魔女とは何なのかが書かれたノートを見つけるシーン。

女性が描く学園もののマンガというと「キスするよ、キスするよ、やっぱダメ」という焦らしに終始するという印象なのですが、このマンガは魔女の設定とそれが徐々に明らかになっていく過程が面白いです。設定が徐々に明らかになっていくサスペンスを楽しめるのは、前に読んだ「魔法少女・オブ・ジ・エンド」を思い起こしました。魔女の力を利用したり、されたり、生徒会と争ったり。

絵も綺麗ですし、ごちゃごちゃしていなくて見やすいし、女性キャラクターも可愛い。学園ものなので恋愛要素も入り、男が好きなパンチラなどのお色気シーンが入ったり、冗談もたくさん。絵がうまく、テンポが良く、ジョークもそれなりに面白く、展開が丁寧で、エロも忘れない。優等生な作品です。ストーリーはラブコメ的ではありますが、魔女の謎というサスペンス要素が魅力です。

「女性の漫画家というのが意外」という言葉は失礼だとは思いますが、女性でもこのような面白い漫画を描けるなら、もっと女性に女性向け漫画以外を描いて欲しいです。荒川弘さんの「鋼の錬金術師」でも物語の設定が非常に丁寧だと感じたので、ストーリーの構成をうまく作れる才能がある人が他にもいるでしょう。もしかしたら編集者が良いのかもしれませんが。

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発現した魔女の能力について細かく考え、新たな糸口を導き出す。

男である私にとっては、女性漫画家が描く女性のイジメやケンカは参考になる部分がありますし、女性がこういうエロを描くのかと眺めたりして、演出方法についての男性と女性の違いも楽しめています。男性向けの目線はどこから仕入れているのでしょうか。

ただちょっと主人公が良い人過ぎます。相手をやり込めようとする場面で、相手に同情してしまったり。「マケン姫っ!」的な後先考えない熱血の主人公よりは良いのですが、もう少しだけずるさがあると人間味を感じます。さらにもう少しダークさがあるともっと楽しめるのですが、ラブコメとしてはそちらには行きにくいでしょうかね。

Amazon ではあまりレビューコメントがないのが気に掛かります。このマンガはあまり売れていないのでしょうか。アニメやドラマになっているのでそれほど売れていないわけではなさそうですが…。

とりあえず私は大いに楽しめました。情報戦は面白いです。情報に価値を置き、戦略を考えて物事を有利に進めるという展開はやっぱり良いです。

吉河美希
講談社 (2012/6/15)
吉河 美希(著)
講談社 (2015/9/17)