女子高生の運動部の青春を男でも追体験できる『あさひなぐ』
運動部の青春と苦悩を追体験できて素晴らしい。女性が主人公だけど全然それを感じさせません。男が読んでも楽しめる。
作者が女性で、女性が主人公のマンガというと恋愛ばかりがテーマで、その上複雑なコマ割りのマンガが多いのですが、「あさひなぐ」は違う。ちなみに「あさひなぐ」はビックコミックスピリッツ(青年誌)にて連載されています。
女性が主人公のマンガで、エロとか恋愛とかに行かず、清々しいマンガってこれまで読んだことがありませんでした。
良いマンガに出会えました。
女性が主人公の運動部の青春
高校で薙刀(なぎなた)部の先輩に憧れて入部した「東島 旭」を主人公として描かれるストーリーで、中学校まで美術部にいた運動がダメダメな主人公。読んでいる人は入り込みやすい設定です。
高校の部活には強くてカッコいい先輩が一人。最初は凜としていて近寄りがたい雰囲気なのですが、しっかりと応援してくれます。
武道は精神的な部分が勝負に色濃く出るため、その先輩の言葉を噛みしめながら主人公は頑張ります。
最初は笑いがところどころに挟まれているのですが、徐々に徐々にシリアスになっていきます。10巻を超えるとあまり笑いはありませんが、全然構いません。
入部したての主人公たち。昔を思い出しますね。女性が主人公でも汗臭さや泥臭さを隠しません。運動部ですから。
入部して間もないうち、突如出ることになってしまった試合ではボロボロです。
旭はまわりよりも劣っているため、特別メニューをやらされます。
薙刀部は競技者人口が少ないようで、だから高校から始めて上位に行くには狙い目の部活らしいのですが、それでも運動部ですから、勝つためとなると厳しいトレーニングが必要だったり、大会の試合に出られなかったり、団体戦で迷惑を掛けてしまったりといろいろあります。
そういう所を悩んだり、仲間とぶつかったり。「あさひなぐ」はヒューマンドラマと大会とのバランスがちょうど良いです。
登場人物一人一人のバックストーリーを順番に長々と見せるものがよくありますが、そういうことにはなりません。
あくまで勝負の結果が第一という考えが見えます。
試合は見せ方がうまい
勝負の時間は短いです。3分間とか。他の武道系の試合でも一瞬で決まることが多いです。
薙刀も「一瞬」が大切な武道。マンガでもうまく表現されています。
作者の方は「私は絵が下手で構図を悩みながら描いている」と語っていましたが、私はむしろ絵がうまい方だと思うのですが…。
1巻から絵が安定していて、見やすいです。散らかっていませんし。
試合の緊張感が良く伝わってきます。勝負は一瞬だから気を抜けません。
共感できるシーンが多い
本当に分かる分かると共感してしまったのがこちら。
うまく勝てず、大会でも試合に出られない。このまま続けていても良い結果が残せないかもしれない。こういう時に考えてしまうのは「やめた方がいいかも…」ということ。
胸が締め付けられるシーンです。
悩む本人以外が合理的な判断をすると「辞めてもいいかもなぁ」と思えるのですが、一昔前のマンガはそういうことはありませんでした。「それでも頑張る」というのが美徳の一つになっていました。
今はそういう時代ではありませんし、「あさひなぐ」はステレオタイプな熱血のマンガとちょっと違う。果たしてどういう決断を下すのか…。
私は辞めるのも選択肢の一つだと思いながら読み進めていきました。
他にも各キャラクターたちがぶつかる壁は共感できるものが多く、それとどう向き合うのか参考になります。
「団体戦は嫌だなぁ」というのも分かります。団体戦と個人戦がある部活はこの悩みはつきものですよね。
運動部を追体験できる
私の学校は部活に力を入れている学校ではありませんでしたから、こういうように真面目に相手に勝つことを目標として運動したことがありません。
このマンガを読んでいると「羨ましい」という思いが湧き上がります。中学や高校でこのマンガに出会っていれば薙刀部に入っていたかもしれません。
それだけの魅力がこのマンガにはあります。
読んでいると結構勉強になるのです。相手の攻撃をどのように避けるのか、どうやって打ち込むのかなど、言葉で直接的には説明されませんが、作者が描いているのが分かります。
そうやって知識を得ていくと、自分でもやってみたいとちょっと思ってしまいます。
運動部に情熱を掛けられなかった、または掛けていなかった私のような人も、このマンガを読むと運動部を頑張る日々を追体験でき、嬉しさがあります。
ただ、実際はこのようにいい人たちに出会えることは少ないんだろうなぁ。
今後どうなっていくか待ち遠しい
主人公の旭は徐々に強くなっていきます。試合にも勝てることが増えてきて、成長が見えます。
先輩たちも引退(卒業?)してしまうし、自分も部活に掛けられる残り時間も見えてくるし、どのような結末を描こうとしているのか気になります。
主人公がいる高校はこれまでそんなに強かった高校ではありませんし、ストーリーにどう結末を付けるのでしょう。
なお、このマンガはキャラクターが結構たくさん登場するのですが、書き分けがしっかりできています。他校の人のストーリーも描かれます。主人公が勝たねばならない試合の相手にもストーリーがあるわけです。
単純な二項対立で成り立っていません。私はどっちにも勝って欲しいなぁと思ってしまいます。ですが勝負は勝ち負けが決まる。一堂さんという他校の強い人が登場するのですが、密かに応援してしまっています。
主人公の学校以外のキャラクターがここまで魅力的に描かれているのは本当にすごいです。たくさんのキャラクターを登場させたは良いが…、というマンガは多いです。
私はスポーツのマンガはあまり入り込めるものがなかったのですが、「あさひなぐ」は入り込めます。主人公が女性なのに。
女である場面をほとんど見せないからかもしれません。女性が登場してもエロが一切無いのはすごく良いです。ドロドロした女性同士の男の取り合いもいじめもありません。清々しいマンガです。
他にも主人公に特殊な強さがないのが良いですね。「今まで右手でやっていたけど実は左利きで…」とか。