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世界のことを知りたい

読書習慣を付けたい。…マンガも本だよね?…バナナはおやつだよね?

違う意味で、読んでいて悲しくなる『陰日向に咲く』

本・マンガ
劇団ひとり / 幻冬舎 (2012/9/12)

Amazon でセールされていたので買ってみました。劇団ひとりという芸人が書いた小説。Amazon でのレビューは高評価がたくさんです。芸人が書く小説というのを買うのは初めてです。北野武の本はいくつか読みましたが、小説ではありませんでした。

全体的には短めの小説で、各章でそれぞれの人物の人生が語られ、それらが少しずつほんのりと他の人物の人生と繋がっている、という作品。手軽に読めます。しかし、気になるのは「軽い」ということ。出てくる登場人物たちは頭が悪いと言ってしまっていいでしょう。口語体などの軽い文体で書かれており、加えてバカで軽薄な話が書かれているため、俗に言うケータイ小説に近いと感じてしまいました。文章は読みやすくはありますが、小説的な文章ではありません。

メディアに踊らされているような女子高生にはこの小説は特に読みやすいと思います。小説中で男にもてあそばれる女性が登場し、恋愛がどうのこうのと、いい大人が書いているのを想像したときは少し寒さを感じました。ただし、「いい大人の劇団ひとりが、よくイマドキの女子の目線になって話を書けたな」という評価も可能です

劇団ひとりという芸人は嫌いではありませんが、書いた本人の知識が小説に現れているように思えてしまいました。「モーゼ(モーセ)」や「アダムとイブ」の話が少しだけ出てくるのが、この本の知的な部分でした。本当に申し訳ないのですが、この小説の内容の印象から、「よくこれを知っていたな」と心で呟いてしまいました。

ただ、憎いのは、軽薄な話だとしてもそれに安い人情話を加えてある部分です。人情話はほとんどの人が好きで、こういうのを悪く批判すると烈火のごとく怒る人がいます。人情話に感動したなら、その人にとってはそれで良いのです。私もそれには何も言いません。しかし私にとっては、無理矢理にいい話に持っていくので、少々興ざめでした。

小説をあまり読んだことがない人が、ある人物と他の人物の日常が少しだけが繋がっているのを匂わせるストーリーに初めて触れたとき、感動するのかもしれません。Amazon のコメントでも、世界が繋がっているのが良かったと書いてあるものが多いです。私はバタフライエフェクト的なストーリーは他で知っていて経験済みで、この小説ではこの部分にあまり感動は覚えられませんでした。

私が感じた良いところを挙げるとすると、ギャンブラーが主人公の章では、ギャンブルを止められないギャンブラーの心理をうまく描いていたように思えます。こんな感じなのかもと思え、説得力はありました。また、あまりにハッピーエンド過ぎないのも良いです。この内容の小説でハッピーエンドだと完全なる駄作だったところです。このように良かった部分が少しあって、駄作一歩手前の、ぎりぎりのラインで踏みとどまっている感があります。土俵際で、足を残した感じです。

この小説を読んでいて、Amazon での高評価の嵐を思うと、世の小説家が哀れに思えてきました。この小説よりも良い小説はたくさんあるでしょう。しかし、一般的には小説家は劇団ひとりよりも世間(またはメディア)の注目度が低い。彼はテレビに出ているため、名も知られていて、何をしても注目される。そこで小説を書いてみたら、内容があまりにひどくない限りは売れる…。普通の小説家はそうもいきません。

普通の小説家は直木賞とか何かの賞を取らないと話題になれません。私もそういった賞で知ったり、人伝に紹介されたりして本を買うことが多いです。現代ではある意味仕方が無いことかもしれませんが、この内容で小説がこれだけ売れるなら、他の小説だってもっと売れても良いはずだとは感じてしまいます。しかし売れるためには内容よりも知名度が重要です。

小説家はこれからはテレビに出たりして注目を集めてから小説を書く方が売れるのかもしれません。売れることが第一目標の人はそちらの方が良いのかも。

劇団ひとり / 幻冬舎 (2012/9/12)