宗教はどれも思い違いをしていた『幼年期の終わり(新版)』
結構前に購入した「幼年期の終わり」をやっと読了。アーサー・C・クラークの有名な小説です。中盤の展開がゆっくりで、そこでつっかえてしまい一気に読み進められませんでした。
「終わり」を迎えるストーリー
私は普段サスペンスな小説を好んで読むのですが、この小説はそのジャンルとは大きく違っていました。サスペンス小説は、問題→解決という流れがあるので、このSF小説にもこのようなストーリー展開を想像していましたが、まったくそういう展開とはなりませんでした。
ストーリーは簡単に言うと人類が宇宙から来た種族の監視下に置かれる、という話。未来を考えてみると、やはりいつかは地球にも宇宙から何者かがやってきて人類とコミュニケーションを取ってくれると考えてしまいます。
しかし、実際には相手がコミュニケーションを取らない可能性もあります。それに人類と対等な立場でコミュニケートしてくれると期待してしまいますが、それも叶わないかもしれません。
未来は人類が宇宙に行けるようになって…と夢を描きますが、他種族から干渉を受ける可能性もあるんですよね。どうもそういうマイナスな面をすっぽりと抜かして夢を描いてしまいます。
この小説では他種族から干渉を受けるというそのストーリーです。人類は滅ばされませんでしたが監視され、その目をかいくぐるものも現れますが、サスペンス小説的な展開とはなりません。
何故監視しているのかという謎は探られていくのですが、謎は謎のまま残るものが多いです。どうやってストーリーの終わりを迎えるのかと考えていたら、本当に「終わり」を迎えてしまいました。
次の文が重くのしかかります。
宗教はどれも思い違いをしてた。人類こそ至上の存在だと考えたという点で。
私達は人類なので、どうしても人類が主体となった宇宙観を思い描いてしまいます。それは間違いだったのです。
宇宙の他種族のことを考えると頭が痛いですね。できる限り早く宇宙に旅立たないと制圧されてしまいます。
もの悲しさが残る
地球にやってきた種族は「オーヴァーロード」と呼ばれます。人類を監督する立場です。何故地球にやってきたのか、どういう姿なのかなど、分からないことばかりです。
知識には圧倒的な差があり、人類は足下にも及びません。そのため言うことを聞くしかありません。人類は家畜同然です。
オーヴァーロードは何故このようなことをしているのかが終盤で分かります。それが分かると何とも言えない気持ちになります。
人類は人類のことだけを考えてしまいますが、オーヴァーロードのことも考えてみるとオーヴァーロードにも問題が存在するのです。ラストはもやもやしたものが残ります。ハッピーエンドではありません。
この小説では進化・発展が良いものに描かれません。オーヴァーロードはどこか醒めています。オーヴァーロードは人類が羨ましいとのことですが、私はそんなに羨ましく思いませんでした。
偶然にも新版を読めて良かった
以前からこの小説の名前だけは知っていたのですが、新版と旧版があるのは知りませんでした。訳した時期が違うだけではありません。アーサー・C・クラークが後に「幼年期の終わり」のストーリーに手を加えた後のものを訳してあるのが新版です。
私は日本語訳の新版の方が読みやすい訳になっていると聞いて新版を買ったのですが、偶然新版を買って良かったです。
Kindle 版の最後にも解説がありましたが、旧版は冷戦時代に書かれたもので小説の始まりがその影響下で書かれているようです。一方新版は、冷戦の終わりの頃にそれを修正したもの。他も細かく加筆修正してあるようですが、今読むなら断然新版ですね。冷戦は遠い記憶になりつつあり、今の時代に近いのは新版の方です。