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異常から見た正常。どうすれば「普通」になれるのか『コンビニ人間』


コンビニ人間

昨年話題になった『コンビニ人間』を読了。そんなに長くない作品です。

就職せずにずっとコンビニでアルバイトしている36歳の未婚の女性が主人公。考え方が子供の頃から異常だと言われ、それを理解しながら正常者を振る舞いながら生きています。

この作品で芥川賞を取った作者の村田沙耶香さんもコンビニでバイトを続けているそうで、コンビニでの働き方の描写が細かい。コンビニのバイトって色々とやらなくてはならなくて大変だなぁ。

主人公は「いい大人がアルバイトしているのか」といつも攻められ、友達からも「結婚しろ」と言われ、場の空気を乱さないようにみんなが納得できるような言い訳を考えています。

妹だけが主人公のことを少し理解してくれていますが、それでも異常な姉を何とか「正常」に治そうとします。でも、本当に正常にならなくてはならないのか。

模倣をすると同化する

主人公は少しサイコパスっぽく描かれてはいますが、人の観察力は鋭い。

母は懸命に、「いい、小鳥さんは小さくて、かわいいでしょう? あっちでお墓を作って、皆でお花をお供えしてあげようね」と言い、結局その通りになったが、私には理解できなかった。皆口をそろえて小鳥がかわいそうだと言いながら、泣きじゃくってその辺の花の茎を引きちぎって殺している。「綺麗なお花。きっと小鳥さんも喜ぶよ」などと言っている光景が頭がおかしいように見えた。

主人公は仕事場のコンビニでも異質にならないように、周りの人を模倣しています。

同じことで怒ると、店員の皆がうれしそうな顔をすると気が付いたのは、アルバイトを始めてすぐのことだった。店長がムカつくとか、夜勤の誰それがサボってるとか、怒りが持ち上がったときに協調すると、不思議な連帯感が生まれて、皆が私の怒りを喜んでくれる。

自分が異常なんだろうなと分かっているからおかしな発言をしないように口をつぐみ、周りの人を参考にして話すようにしています。

頭が良い。ただここが皮肉なところで、周りを模倣しているから自分が周りに同化していく。

朱に交われば~ということわざの通り当然のことではありますが、普通の人なら無意識にやってしまうその同化を主人公は利用しています

この話し方は○○さんの話し方。こっちは○○さん。こういう話し方をしておけば異質に見られない。

この感覚は分かります。コミュニティに所属するために同じ話し方をする、同じ趣味にする、同じ感想にする。

こういう経験は多少なりともあるのではないでしょうか。

大学生、バンドをやっている男の子、フリーター、主婦、夜学の高校生、いろいろな人が、同じ制服を着て、均一な「店員」という生き物に作り直されていくのが面白かった。その日の研修が終わると、皆、制服を脱いで元の状態に戻った。他の生き物に着替えているようにも感じられた。

主人公はコンビニに所属することで、正常な、均一な「店員」になれる。店員でありさえすれば正常に見られる。

正常になれていると安心する。

泉さんと菅原さんの表情を見て、ああ、私は今、上手に「人間」ができているんだ、と安堵する。この安堵を、コンビニエンスストアという場所で、何度繰り返しただろうか。

昔の友達や妹から「話し方変わったね」と言われますが。

周りと同じ事をすれば正常

後半では関わる人物が一人増えます。主人公と似ている人物。

 「この世界は異物を認めない。僕はずっとそれに苦しんできたんだ」

この叫びは共感してしまいます。

田舎では特にそうなのですが、みんな同じようにしていないと仲間はずれにされるのです。私も陰口を思いっきり言われていることでしょう。

「結婚しろ」、さらには「跡継ぎを作れ」と言われたときはいつの時代に迷い込んだのかと思いました。

田舎に限らず異常者を認めない人は多く、同じような生活をしていないと不満なようです。最近話題のLGBTの人はそんなに批判されるべき存在ではないはずなのですが…。

LGBTの人に対して、異常で、気持ち悪く、劣等だと言い放つ人がいますが、どうしてそのような考えに至ってしまうのか本当に不思議です。

作中にありますが、

「普通の人間っていうのはね、普通じゃない人間を裁判するのが趣味なんですよ。」

これは本当に真理かもしれません。

「私こそが正常だ」と思っていなければ、他者を裁けません。これは正義の話にも同じ事が言えて、「私こそが正義だ」と思っていなければ悪を裁けません。

正義と名乗る軍団が悪を寄ってたかっていじめるテレビ番組がよくありますが、あれはよくないかもしれませんね。

絶対正義を振る舞えば「愛と勇気だけが友達さ」になってしまうことは主題歌が説明しています。


コンビニ人間